経営全般

テナント家賃の値上げは拒否できる| 拒否の手順・交渉に必要な準備・成功パターン3選

「貸主から家賃の値上げを通知された。拒否できるのか?」——テナントを借りて店舗を経営していれば、いつか必ず直面する問題です。結論から言えば、テナント家賃の値上げは拒否できます。借地借家法32条により、貸主と借主の合意がなければ賃料は変更されません。ただし、「拒否できる」ことと「拒否が成功する」ことは別の話です。本記事では、値上げ通知を受けた店舗経営者が取るべき5つのステップ、交渉に必要な相場データの集め方、そして拒否・減額に成功した3つのパターンを解説します。

1. テナント家賃の値上げは拒否できる|法的根拠

テナント家賃の値上げに対する法的な立場を理解しておくことが、交渉の出発点です。

💡 借地借家法32条のポイント(テナント側の視点)

借地借家法32条は、賃料が「不相当」になった場合に貸主・借主のどちらからでも賃料の増減を請求できると定めています。ここで重要なのは、貸主が値上げを「請求」しただけでは賃料は変わらないということです。賃料の変更には貸主と借主の「合意」が必要であり、合意に至らない場合は裁判所の判断を仰ぐことになります。つまり、借主が値上げに同意しない限り、現行賃料を支払い続けることに法的な問題はありません。

よくある誤解実際のルール
「値上げ通知が届いたら、来月から新しい賃料を払わなければならない」通知だけでは賃料は変わらない。借主が同意しなければ現行賃料のまま。
「貸主が値上げすると言ったら従うしかない」借地借家法32条により、借主にも賃料の減額を請求する権利がある。交渉は対等。
「値上げを拒否したら退去させられる」正当事由のない立退き要求はできない(借地借家法28条)。値上げ拒否は退去事由にならない。
「合意しないと裁判になり、不利になる」裁判(調停→訴訟)になった場合でも、裁判所が「相当」と認める金額が適用される。貸主の言い値がそのまま通るわけではない。

※本記事は一般的な法律知識の整理であり、個別の事案への法的助言ではありません。具体的な対応は弁護士にご相談ください。

2. 値上げ通知を受けたら取るべき5ステップ

①すぐに同意しない。書面で回答する。

口頭で「わかりました」と言ってしまうと、合意したとみなされる可能性があります。値上げ通知を受けたら「検討させていただきます」とだけ回答し、書面(メールでも可)で正式に対応してください。回答期限を確認し、期限までに以下のステップを進めます。

②値上げの「根拠」を貸主に確認する。

貸主に「値上げの根拠となる資料を提示してください」と書面で依頼します。借地借家法32条で認められる値上げの根拠は、周辺相場との乖離、固定資産税の上昇、経済事情の変動の3つです。根拠資料が提示されなければ、値上げの正当性を判断できないため、交渉を進める前提が整いません。

③自社で周辺相場を調査する。

貸主の主張が「周辺相場と比較して安い」であれば、自社でも周辺相場を調査し、現行賃料が本当に相場より安いのかを検証します。調査方法は次のセクションで解説します。

④交渉の方針を決める。

調査の結果、現行賃料が相場より明らかに安い場合は「値上げ幅の圧縮」を交渉。相場と同等または高い場合は「値上げの拒否」を交渉。自社の経営状況(売上、利益率、賃料負担率)も踏まえて、「いくらまでなら受け入れられるか」のラインを決めておきます。

⑤書面で回答し、交渉を開始する。

調査結果を添えて、書面で回答します。「現行賃料は周辺相場の範囲内であるため、値上げには応じかねます」または「値上げ幅を○円に圧縮していただけるのであれば検討します」——具体的な数字と根拠を示して交渉に入ります。

⚠ 値上げに同意するまで、現行賃料を支払い続けること

交渉中であっても、現行賃料は毎月きちんと支払い続けてください。借地借家法32条2項により、裁判で新賃料が確定するまでの間、借主は「相当と認める額」を支払えばよいとされており、通常は現行賃料がこれに該当します。逆に、値上げに納得できないからといって賃料の支払いを止めると、契約違反(賃料滞納)となり、貸主に解除権を与えてしまうので絶対に避けてください。

3. 交渉に必要な「相場データ」の集め方

値上げを拒否する最も強力な武器は「データ」です。感情的に「高い」と主張しても交渉は進みません。以下の方法で周辺相場を調査してください。

調査方法具体的なやり方メリット
①不動産ポータルサイトで募集中物件を検索アットホーム、店舗相場TOWNなどで、自社物件の周辺エリア・同規模・同用途の募集物件を3〜5件検索。坪単価を算出して比較。無料ですぐに実施可能。現在の「募集賃料」の相場がわかる。
②テナント仲介会社に相場を問い合わせる地域に精通したテナント仲介会社に「このエリア・この用途の相場はいくらか」を問い合わせる。非公開の成約事例を含む、より正確な相場がわかる。同じビル内の他テナントの賃料情報が得られることも。
③固定資産税の評価額を確認する貸主が「固定資産税が上がったから」を理由にしている場合、固定資産税の評価額の変動率を確認。市区町村の固定資産税担当課で閲覧可能。貸主の主張する値上げ幅が、固定資産税の上昇幅と釣り合っているかを検証できる。

💡 テナント仲介会社に相談するのが最も効率的

テナント仲介会社は、同エリア・同業態の賃料相場を横断的に把握しています。「この物件の坪単価○円は、周辺相場の○円と比較して高い/適正/安い」という客観的なデータを提供できるため、交渉の根拠資料として最も説得力があります。クラスラ不動産は「テナントの窓口」フランチャイズとして全国30拠点超の賃料データを保有しており、御社の物件の賃料が相場と比較して適正かどうかの診断を無料で行っています。

4. 拒否・減額に成功した3つのパターン

以下は、テナント仲介の現場でよく見られる値上げ拒否・減額交渉の成功パターンです(個別事例ではなく、一般的なパターンとして整理しています)。

パターン①:周辺相場データで「値上げの根拠なし」を証明

貸主が「周辺の賃料が上がっているから」を理由に坪単価2,000円の値上げを要求。借主がテナント仲介会社を通じて周辺5物件の募集坪単価を調査したところ、現行賃料は周辺相場の範囲内であることが判明。調査結果を書面で提示し、値上げの根拠がないことを主張。結果、値上げは撤回されました。

パターン②:値上げ幅を圧縮して「落としどころ」を見つける

貸主が月額5万円(10%)の値上げを要求。借主が周辺相場を調査したところ、現行賃料はやや安い水準であることが判明。値上げ自体には一定の合理性があると判断し、「3%(月額1.5万円)であれば受け入れ可能」と逆提案。最終的に2万円の値上げで合意。貸主の言い値の40%に圧縮しました。

パターン③:長期契約の確約と引き換えに値上げを撤回

貸主が契約更新のタイミングで値上げを要求。借主は「値上げなしで5年の長期契約を結ぶ」ことを提案。貸主にとっては空室リスクの回避と安定収入の確保がメリットとなり、値上げは撤回され、現行賃料での5年契約が成立しました。

5. 拒否した場合に起こりうること

段階内容テナント側の対応
①交渉(協議)貸主と借主が直接話し合い。大半のケースはこの段階で解決する。相場データを根拠に、冷静に交渉。感情的にならない。
②調停交渉が不調の場合、貸主が簡易裁判所に調停を申し立てる。調停委員が間に入り、合意を促す。調停は話し合いの延長。弁護士に相談しつつ、相場データを提示して主張を続ける。
③訴訟調停が不成立の場合、貸主が訴訟を提起。裁判所が「相当な賃料」を判断する。不動産鑑定士の鑑定が行われる場合がある。弁護士の代理が事実上必須。

実務上、訴訟まで至るケースは少数です。貸主にとっても裁判は時間とコストがかかるため、交渉または調停の段階で「落としどころ」を見つけるほうが合理的だからです。借主が相場データに基づいた根拠ある主張をしていれば、裁判になっても不利にはなりません。

⚠ 交渉中に「退去」をちらつかされた場合

貸主から「値上げに応じなければ退去してもらう」と言われるケースがありますが、これは法的に無効な主張です。普通借家契約では、正当事由がなければ貸主からの解約(立退き要求)はできません(借地借家法28条)。値上げの拒否は正当事由に該当しません。ただし、定期借家契約の場合は契約満了で終了するため、再契約の交渉材料として値上げを受け入れざるを得ないケースもあります。契約の種類を確認した上で対応してください。

6. まとめ|「感情」ではなく「データ」で交渉する

テナント家賃の値上げは、法的には拒否できます。しかし、拒否を成功させるには「感情」ではなく「データ」が必要です。周辺相場の調査、固定資産税の変動確認、自社の賃料負担率の計算——これらの準備をした上で、書面で根拠を示して交渉に臨んでください。

最も効率的なのは、テナント仲介会社に相場の調査を依頼し、客観的なデータを交渉材料として使うことです。仲介会社は貸主との関係を持っている場合もあり、第三者として交渉を仲介できる立場にあります。

この記事の監修者

宮﨑 俊太(宅建士)

宮﨑 俊太(宅建士)

医療・看護施設の開業支援業を経て、2025年に宅地建物取引士を取得しクラスラ不動産を開業。
全国30拠点超のネットワーク「テナントの窓口」フランチャイズ加盟。全国チェーンのリーシングから、地場企業の多店舗展開まで、テナント出店に特化したご支援を行っています。
(株式会社CAMPWILL 代表取締役)

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